太陽系外惑星のニュース相次ぐ

このところ、科学界での大きな発見が相次いでいます。19世紀半ば、ある物理学の権威は、物理学はもう完成されてしまったからつまらない学問だなどと言ったそうですが、とんでもないおごりですね。

先日紹介した惑星タトゥイーンの夕日じゃないですが、また太陽系外惑星に関する新しいニュースがありました。



まずは、スイス、フランス、ポルトガルの科学者グループが地球によく似た太陽系外惑星を発見したというニュース。赤色矮星を周回する惑星で、半径は地球の1.5倍、質量は5倍ほど。液体の水が存在できる環境を整えているそうです。

この赤色矮星には、すでに海王星ほどの大きさを持つ惑星の存在が知られており、その他にも地球の8倍程度の別の惑星もあるらしいと考えられています。

中心の恒星からの距離が液体の水の存在に適したものであり、その外側に大きめの惑星が周回しているのであれば、生命が存在する可能性がでてきます。外側の惑星は、系外から降り注ぐ小天体をひきつけて、地球型の惑星に隕石が落ちることを防いでくれるからです。地球の場合、木星土星がこうした役割を引き受けてくれています。

もし木星土星がなかったら、地球にはたくさんの巨大な隕石が今も降り続け、生命の誕生や維持が難しかったでしょう。それだけ外側にある大きな惑星の存在は重要です。

こうした条件を満たす惑星は、habitable zone といわれる領域内に存在します。上述した「液体の水」が存在することが第一条件で、太陽系の場合は非常に狭い領域であり、地球は奇跡的にその領域内にある訳です。

この他、惑星自体が木星のようなガス主体の天体ではなく、地球のように岩石主体の天体であり、地殻活動なども適度に活発であることが要求されます。これは、大気の形成やそれに伴なう気象現象 (つまり大気の循環や温度の維持) に関係してきます。また、大気が逃げ出さないように、ある程度の重力 (つまり大きさ) も必要ですね。温度も大気の維持には大きな要素となります。

そして、中心の恒星があまり大きいと進化の速度が速くなり、生命が誕生または進化するための時間的猶予がありません。太陽のように安定した主系列星であることが望ましいですが、今回発見された惑星が周回している赤色矮星は、太陽よりも進化の速度が遅いので生命誕生のチャンスはありそうです。これからの観測結果が楽しみですね。



さて、このニュースよりも少し前には、アリゾナ州にあるローウェル天文台の科学者が、太陽系外の惑星に水が存在している有力な証拠を見つけたと発表しました。先ほどの惑星では、水の存在する「条件」が揃っているだけで、水を見つけることはできませんでしたが、こちらの「発見」では、水を見つけたというものです。正確には「水蒸気」ですが。

ただし、これはすでに様々な手法で調べられた天体のデータを、新しい手法で調べた結果だというものです。その手法は非常に複雑なもので、その精度が問われそうです。それに、これまでの方法が非力なものだった訳ではなく、過去に調査を行った NASAハーバード大などから反論が出ることは必至でしょう。

ちなみにローウェル天文台は、先日「準惑星」に格下げされた Pluto を発見した天文台です。また、「ハッブルの法則」の考えの素になった「かに星雲の相対的移動」などの宇宙膨張の証拠を発見しています。でも創立者のローウェルさんは、火星にある縞模様を火星人が作った運河だと唱えて論争を巻き起こした人なので、「お騒がせ」なイメージもありますね。オーソン・ウェルズのナレーションで有名な「火星人来襲」も、これがヒントになってたりします。



天文ではないですが、物理分野でもニュースがありました。高エネルギー加速器研究機構国立大学法人京都大学 (今はこんな名前になったんですね) が共同で行った厳密な計算機シミュレーションで、「量子色力学における自発的対称性の破れを厳密に実証」したそうです。

ちょっと難しいですね。というか、「量子色力学」とか「自発的対称性の破れ」とか、たぶん普通の人にはピンとこないと思います。で、このニュースはどういうことかを普通の言葉で書くと、「物質の質量の起源となる現象をコンピュータを使って再現したよ」ということです。

ここでまず、物質の質量とは何ぞやってことですが、これは物質がもつ「性質」の1つに過ぎないんですね。で、素の物質には元々質量はなくて、後からくっついたものなんです、現在の理論では。

まあ、それはいいんですが、不思議なのは、クォークでできている粒子の質量です。例えば陽子や中性子。これは3つのクォークで構成されているんですが、その3つのクォークの質量を合わせても、陽子や中性子の質量にはならないんですね。全然足りない。
98%くらい不足してます。

そこで、その足りない分を説明するものがカイラル対称性の自発的な破れ、つまり「自発的対称性の破れ」って現象なんです。つまり、陽子や中性子の質量は、物質そのものが持っている重さではなくて、他の原因で生まれるってことですね。

じゃあ、その原因となっているのは何かというと、ヒッグス粒子と呼ばれる謎の粒子です。いや、もう少し正確に言うと、ヒッグス場というものがこの宇宙空間を満たしていて、このヒッグス場とのやり取りの強さで物質の質量が決まるんです。

で、場があるからには、それに対応した粒子 (つまりヒッグス粒子) があるはずだと考えられていて、場を見つける (= 観測する) ことは難しいから粒子を見つけることで場の存在を確かめようって科学者はたくらんでいるんですね。ややこしい。

ただこのヒッグス場は、ほかの場 (重力場、電磁場など) などとはちょっと違います。普通は粒子が存在することで場が「形成」され、元となる粒子からの距離に応じて強さが変わります。ところがヒッグス場は、宇宙のいたるを満たしていて、粒子の有無には関係ないようなんです。だから、ヒッグス粒子が見つかったとしても、ヒッグス場をすぐに説明できるかどうか。この辺りはあまり詳しくないのでめったなことは書けませんが、いづれにしても「よく分かっていない」というのが科学者の本音です。

ちょっと話が逸れてしまいましたが、このニュースの根幹にあるものは、実際の観測は現在の科学レベルじゃちょっと無理なので、コンピュータで再現してみました、ということです。だから「実証」という言い方はちょっとそぐわない気もしないではないんですが、有力な「状況証拠」ぐらいにはなるでしょうかね。でも、とても興味深い話題です。



こうしたニュースがぽんぽん入ってくるようになった最近の科学界は、今一番面白い分野かも知れません。日本人の科学離れが騒がれていますが、こうしたニュースに刺激を受けてくれる学生さんが出てくれることを願うばかりです。