分散コンピューティング + コラボレーティブ・ワークスペース = なーんだ?


PS3持っている人、いますか? 言うまでもなく「プレイステーション3」のことですが、家庭用ゲーム機であるとともに、ブルーレイ・ディスク対応により映画の鑑賞にも使えますね。でも実は、もっとすごいことができるんです。

スタンフォード大学では、パーキンソン病アルツハイマー病、癌などの原因究明を目指して Folding@Home というプロジェクトを進めているんですが、このプロジェクトに PS3で参加できるんですよ。

Folding@Home は医学プロジェクトであるんですが、分散コンピューティング (別名=グリッド・コンピューティング) という面でも試験的なプロジェクトであるんです。で、分散コンピューティングとは何ぞやということですが、簡単に言えば、たくさんのコンピュータを繋いで1つの仮想的な大型コンピュータとして使う、というものです。例え一台一台のパソコンが非力であっても、繋ぐコンピュータの数が増えればもの凄いパワーになる訳です。

Folding@Home には、すでに全世界から100万個の CPU*1 が参加しているとのことで、普通のパソコンでも小さなソフトウェアを1つダウンロードするだけで協力できます。でも、PS3ならもっと貢献度が高くなるんです。

それは、PS3に搭載されている CPU のパワーが、普通のパソコンよりもかなり強力なもので、演算処理速度は20倍くらい高速だからです。PS3、やるなぁ。

つまり、PS3を持っている人は、ゲームや映画を楽しむ「娯楽の機械」としてだけでなく、「社会的な貢献」もできるから使っているんだと胸を張ることができる訳です (プロジェクトに参加すればね)

こういう分散コンピューティングという手法は、スーパー・コンピュータに代わる有効な手段として結構使われていて、その歴史も割と長いんです。有名な地球外知的生命体の探索プロジェクトの SETI (日本語サイトはこちら) も、1996にはその基本構想ができていました (実際の開始は1999年)。

で、ここまでは分散コンピューティングはすごいなぁ、というお話なんですが、これはあくまで「処理する側」のお話。実際の作業では、分散された処理の結果を1つにまとめる作業がある訳です。そして、その解析結果を使うのは、極限られたマシン (というか人) だけです (もちろんデータの公表はしますけど)。

じゃあ、逆に、使う側がいろんなパソコンなどで参加できるような仕組みはないのかと言うと、ちゃんとあるんです。コラボレーティブ・ワークスペースなんて言えばいいのかな。1つの作業空間に複数の作業者が (地理的な制限も受けずに) 同時に参加して、共同作業ができる仕組みなんですね。

これは、一箇所で集中管理された処理側の下で、複数のユーザーが (いろんな所から) 参加し、それぞれに作業を進めていくというもので、作業結果は他のユーザーと重ならないようにうまくコントロールされ、最終的に「公共の」作業空間に戻されます。

ふーん、そうか。でも、分散コンピューティングとコラボレーティブ・ワークスペースは対極にある感じだけど、それを統合することってのは出来ないんでしょうか? いや、実はあるんです。その1つが Second Life です (と勝手に思ってます) 。つまり、分散コンピューティングによる仮想的なマシンとコラボレーティブ・ワークスペースによる仮想的な作業空間で支えられた、仮想的な生活空間ですね。

Second Life についての詳しい説明は省きますが、これは単なる仮想のゲーム空間ではないんです。すでに大手企業 (トヨタ、日産、デル、ソニー BMG、ロイター通信などなど) も仮想空間に参入して事業を行っているし、個人で大金を稼いだ「実業家」も現れています。そして、個人的には、「分散コンピューティングとコラボレーティブ・ワークスペースの融合」が図られ、成功しつつある、最初の大型プロジェクトじゃないかって思う訳です。

ん? Second Life がコラボレーティブ・ワークスペースを採り入れているのは分かるけど、分散コンピューティングなの?

そう思う人もいるんじゃないかと思いますが、『Second Life の世界は単一の連続した「グリッド」上に存在し、人口増加に従って新しい土地(サーバー)が追加されます』と Second Life の提供元 Linden Lab のサイトにも書かれているように、分散コンピューティング手法を使っています。もう少し簡単に言うと、サンフランシスコとダラスにある2000台のサーバーを繋いでいるんです (参照:Gustavo Franco 氏のブログ)。

この Second Life ですが、日本語版が間もなく開始されるようです。参加するにはアカウントを取得する必要がありますが、仮想ワールド内で買い物をする必要がなければお金はかかりません。その世界で空を飛んだり姿を変えたり (性別を変えたり犬になることもできるそうです) するのも無料だし、いろんな街に行って、いろんな人と会話できるのは楽しいかも (英語じゃないと相手は限られますが)。こうやってもう一つの世界を楽しんでみるのも面白いかなと、最近ちょっと気になってます。

何か、映画の Matrix を地で行くような感じですね。本当の自分と、仮想空間の中で暮らす自分。人によっては、仮想空間への依存度の方が高い場合も出てくるんでしょうね。それって、どうなんだろう。

*1:一台のパソコンに搭載されている CPU は1つとは限りません。また、CPU はパソコン以外にも使われているものなので、パソコンの台数ではなくて CPU の個数をカウントしているのだと思います。