ミクロとマクロの競演 18:51

このところ、天文関係のニュースが結構続いていますね。今日も朝日コムには、国立天文台による渦巻銀河の電波写真のことや、ハッブル宇宙望遠鏡が捕らえた惑星状星雲 (恒星が末期に爆発してガスが放出されている天体) の写真などが紹介されていました。電波望遠鏡による宇宙の最遠にある銀河の発見、宇宙理論の大きな進展など、目が離せない感じです。

でも、天文学以外でも、注目すべきニュースがありました。

朝日コムでも紹介されていましたが、東京大学の研究チームが、動いている分子の様子を撮影することに成功しました。これって、めちゃくちゃすごいことです。この快挙は、東大のサイトのほか、米国科学振興協会による Science 誌の電子速報版 Science Express にも紹介されています。

量子力学の世界では、原子や電子などの粒子を「そのままの状態で観測」することはできないとされています。観測するためには光や X 線などの電磁波を当てないとならない訳ですが、そうした観測用の電磁波が当たった瞬間に、観測対象の粒子の運動状態やエネルギー状態が大きく変化してしまうからです。

つまり、観測するために電磁波を当てた「直後」の状態しか、実際には観測できないという訳です。ついでに言うと、観測していない時にはその場所に存在しているかしていないかが確定できない状態 (シュレーディンガーの猫の状態) でもあり、日常の一般常識が通用しません。ま、それは置いておきましょう。

単独の原子や、電子など素粒子と違い、原子がいくつか繋がってできた分子の場合はそれだけ大きくなるので、観測するための電磁波を弱くすることでその影響 (=エネルギーや運動状態の変化) を抑えることができます。完全なその状態ではないにしても、それに近い「生」の様子は観測できる可能性がある訳です。

しかし分子は真空中を猛烈な勢いで飛び回っているために、その瞬間以外は見ることができないと思われていました。電子顕微鏡のような観測機器の視野の中に、大人しく収まってくれないからです。ちなみに真空中でなければどうなるかと言うと、他の分子や粒子にぶつかって壊れたり、ランダムな動き (アインシュタイン見つけた解明したブラウン運動) をしてしまい、やはり観測は難しいと言えます。

そこで東大チームは、真空中でカーボン・ナノチューブという細い管に分子を閉じ込めて動きを制限し、その状態で動きを観測したのです。しかも観測しやすいようにと、大型で動きが分かりやすい形の「特徴的な構造をもつ一連の分子を設計・合成」して実験に取り掛かったというから驚きです。つまり、観測に都合のいい形をした分子を作っちゃったんですね。

ま、言われてみれば何てことない発想と思うかもしれませんが、これまで誰も考えなかったし、実現できなかった技術です。個人的には、かなり興奮しましたね。やっぱり凄いです。さすがは日本の最高学府。

また、単に動く分子の様子を撮影しただけでなく、これまでに考えられていなかったような現象もいくつか発見したようです。今後さらに、ミクロの不思議な世界が分かってくるのでしょう。

天文 (=マクロ) と粒子 (=ミクロ) の両方の分野で、これからしばらくホットなニュースが楽しめそうです。