道具は道具

いやー、風邪なんだと思いますが、頭痛と咳がなかなか治りません。寝込むほどひどくはないのですが、長時間の仕事には堪えます。でも、頭が痛いのは、風邪のせいだけではないようです。

今手掛けている仕事では、業界で事実上の標準的なツールになっている Trados を使っているのですが、このツールが何なのかを知らないクライアントはとんでもないことを指示してきます。

今回の仕事のクライアントはかなりの大手企業なのですが、Trados を信用しすぎのようです。このツールはあくまでも「翻訳者の作業を支援する」ためのものであり、自動翻訳をしてくれるものではありません。つまり、過去に手作業で入力された翻訳単位 (例外も多いですが、基本的に1つの文章を1つの翻訳単位と呼びます) と一致する翻訳単位を見つけると、その訳を自動的に入力してくれて、一致率を%で表示し、修正などが必要であれば翻訳者が適宜作業を行うというものです。

どの程度一致すれば自動的に入力してくれるかは、予め設定できますが、前後関係から、適切に文を整えることなどはしてくれません。あくまで“as is” (現状のまま) で入力されてしまいます。

そのため、たとえ100%の一致であっても、状況に合わせて修正しなければならないことも少なくありません。100%未満であれば、間違いなく修正が必要です。で、本来はこうした修正をうまくやるのが、翻訳者の役目なのです。

しかし今回のクライアントは何を思ったのか、95%の一致までは手をつけなくていいと言うのです。その分については、お金も払わないし、何もするなとの指示です。

その結果、見るも無残な翻訳が出来上がっている訳です。タイポはもちろん、「です・ます」調と「だ・である」調が混在し、意味が違っているものも少なからずあります。

お金をもらえない訳だし、その量は半端なものではなく (担当分だけでも600ページ近くあります)、その上すべての翻訳作業を2週間程で仕上げないとならないためとても構っていられませんが、こういう仕事はやっていて気持ちの悪いものです。ま、最終的にこんなひどい出来の翻訳を世に出すのはクライアントですから、(そこまで言うのなら) こちらは構いませんけどね。何しろこの世界は、クライアントの言うことは絶対です。クライアントが「白」といえば、例え黒いものでも「白」にしなくてはなりません。アホくさ。

そして、困ったことはクライアントだけではありません。今回依頼をしてきた翻訳会社は、すでに翻訳済みの部分と翻訳をしなければならない作業対象部分を (色分けなどで) 区別してくれないのです。通常、たとえば全体の90%程度がすでに翻訳されており、加筆部分などの残り10%程度を作業しなければならないような場合は、翻訳作業外の部分に色をつけて、作業対象箇所を見やすくしてくれます。作業者も、後でチェックを入れる人も、これで不要な部分に目を通さなくて済むわけです。

ところがこの翻訳会社は、そういう処理をするためのソフトが高いので買いたくないらしく、できないと言うのです。つまり、お金をケチって翻訳者の手間を増やし、作業効率をものすごく低下させているのです。おかげで無駄に作業対象外の部分を、目を皿のようにしてチェックしなければなりません。さきほども書いたように、600ページ分の中から作業箇所を手作業で探しださなければなりません。なんと言う無駄!そして、その作業には一切報酬がありません。言うなれば、サービス残業みたいなもんですよ。ふっ。

ま、そんな訳で、風邪以外にも頭が痛くなる原因がたくさんある訳です。下請けは辛いですよ、まったく。しかも個人でやっているため、仕事が終わってから同僚と憂さ晴らしに飲みに行くなんてこともできないですしね。カミサンに仕事のことで愚痴を言うのも悪いし。こういうストレスって、どこへ持っていけばいいんでしょうねー。

さて、こうしている間にも時間はどんどん過ぎていきます。また仕事に戻らねば。。。