翻訳者の書くブログって攻撃的

自分が翻訳者であることを棚に上げて書くのですが、これまで目にした翻訳者または翻訳家が書いたブログやウェブサイトの内容は、かなり攻撃的な話が多いように思います。翻訳会社に対する文句、他の翻訳者に対する批判、原文のひどさに対する嘆き、そして業界に対する不満、などなど。んー、やっぱり自分に当てはまる部分もありますね、ありゃりゃ。

何故翻訳者は攻撃的な文章を書くのでしょうか? 特に自己顕示欲の高い人ばかりだとは思わないのですが (ブログなんか書いて世間様に意見すること自体、自己顕示欲が高いことの証明かもしれませんが)、やはり毎日の仕事でイライラしているからではないかと思います。

例えば、先日書いたようなひどい翻訳会社の対応で、仕事はおろか生活に影響が出てきた場合とか、出来が悪い訳じゃないのに好みに合わないからと文句を言うクライアントとか (値切るためにそういうことをするクライアントは結構います)、仕事場や睡眠中に周囲の騒音 (学生が音楽をかけたり叫んだり) で邪魔されるとか、そういう外的要因があって、さらにそうした鬱憤を晴らす場が少ないという環境に置かれているからじゃないでしょうかね。

翻訳って言うと、世間一般ではちょっと聞こえがいいのかも知れませんが (そうか?)、実はとても地味な仕事です。来る日も来る日もパソコンの前に座り、長時間キーボードを一心不乱に叩いている。文芸翻訳や特許翻訳の場合なら、調べ物のためにあちこち出回ることもありますが、通常の商業翻訳ならインターネットで検索。正直、膨大な量の翻訳があるのに、図書館やらで資料を調べてくるなんて暇はありません。常に時間に追われている。これがイライラの原因の1つでしょう。

まあ、翻訳者にもいろいろあります。フリーの翻訳者よりも、会社の仕事の一環として翻訳を受け持っている人も多いでしょうし、翻訳会社に勤めている翻訳者 (正確にはチェッカー) や、特許のように専属の場合もあります。普段は普通のサラリーマンで、週末や仕事の後に少しだけ翻訳をしている人も少なくないでしょう。でも、その人たちは自宅から仕事場に出かけ、少なくとも数人の人に会い、話をしたり挨拶をしたり出来ますよね。通勤では周囲の景色を見て、外の空気を吸い、街の様子を肌で感じることができます。ま、普通のサラリーマンと一緒です。でも、フリーの翻訳者は違うんです。

知人とランチを食べようとか、この日は飲みに行こうとか、そんな誘いがあったとしても、仕事が入ってしまったら行けません。時間がタイトでお昼前後が締め切りの仕事であれば、ランチを外で食べるなんてできない訳です。ましてそれがレギュラーの仕事であれば、ずっとランチを外で食べられません。また、仕事の連絡が来るかも知れないと思うと、長時間外出するのも躊躇われます。日本の会社からの連絡だと、時差があるので夜遅くまでメールを確認しないとならないし。。。ま、休むときは前もって関係者に連絡しておいて、どーっと長期休暇を取ったりはできますけど。

そうやってリアルな人間関係を持つ時間が限られてしまうと、コミュニケーションが不十分になり、変に言葉の裏を読んだり心配性になったりして、自分の住む世界を狭めてしまうんです。しかもそのことを分かっていて、それが良くないことだとも理解していて、でもどうにもできないというジレンマに陥ってしまうため、イライラして攻撃的になってくるんでしょう。少なくともそういう境遇のフリーの翻訳者は少なくないと思います。その結果、うつ病とかになることもあるんでしょうね (実際なりました)。

救いはですね、幸いにもいろいろな文章に接して様々な知識を (断片的であれ) 持っていることで、自己分析を割と冷静にできるということです。なので壊れる前に自分で自分をコントロールできる訳です。「そろそろ休まなくちゃ」とか。でも、その直前までは神経張りっぱなしになるので、気付かないうちに怖い顔になってます。だから時々鏡を見て吃驚することもあります。あー、あと、ため息なんかも多くなりますね。ぶつぶつ独り言を言って、嫌なことを口に出すことで多少ストレスを抑えたり。いやー、改めてこう書くと、とても病的な仕事ですね、翻訳って。特に特許の場合は、自殺したりする人もいるくらいなので、その凄まじさが分かると思います。だって、引き受けた仕事は、誰も助けてくれないですからね。プロならやり遂げなければならないし、出来なかったらもう仕事はもらえない。プレッシャーはもの凄く大きいですよ、特に家族がいれば。

むかーし、まだ小学校の頃、自宅でする仕事に憧れたことがあります。何となくですが、広い庭があり、開放的で明るい仕事部屋で書類に目を通していると、ペットの大きな犬が駆け寄ってきて、笑顔の家族が庭からこちらを見ている。。。ぼーっとそんなことを思い描いた事があったのですが、現実はそんなに甘くありません (笑)。

ただ、通勤ラッシュには無縁だし、雨の日とかに外に出なくても済むのは楽です。その時ばかりは、翻訳をやっていて良かったなと思います。小さな小さな幸せですね。それから、定年もないしクビになる心配もない。スケジュールは自分で調整することもできるので、世間が忙しい時にのんびりできる。人と同じでないと不安な人には向きませんが、人と違う方がいいという変わり者には最適の職業です。でも、やはり好きでないと続かない職業か知れません。

結局、翻訳者は変わり者だから攻撃的なブログを書くのかなぁ。