キャリアマトリックスをちょっと拝見

朝日新聞のオンライン版で、独立行政法人労働政策研究・研修機構が500を超える職業を紹介する情報データベース「キャリアマトリックス」をインターネット上で公開した、という記事が出ていました (もう数日前なので、ご存知の方も多いと思いますが)。ふむふむ、ちょっと面白そうです。

という訳で、早速「翻訳」についてチェックしてみました。トップページの [職業検索] ボタンを押し、[フリーワード検索] 欄に「翻訳」と入力して [検索] ボタンを押してみます。すると1件のヒットがありました。「1.翻訳者 [トランスレイター(翻訳家)トランスレイター、翻訳員、翻訳家」となっています。選びようがないので (というか、これで合っているので)、このリンクをクリックすると、小さいウィンドウが出てきました。

ここでまず「へぇ〜」と思ったのは、類似職業が「通訳者、速記者、小説家」となっていることです。通訳者と小説家は分かるのですが、速記って翻訳と類似してるってことになるんですね。知らなかった。めったにお目にかかれる職業じゃないのでよく分からないのですが、「書く」ということで大きく一まとめにされたんでしょうか。ふーん。でも、それなら編集者も一緒に入れるべきだと思うんですけどねー。実際編集の仕事なんかもオファーが来たりするんですが。。。誰が決めたんだろう。

それでは、中身を見てみましょう。

  • どんな職業か

ここには『翻訳者は、大きく「出版翻訳」と「産業翻訳」に分けられる』と書いてあります。ま、確かにそうなんですが、正確には、この他に「映像翻訳」ってものが入ります。映画の字幕なんかを訳出する仕事ですね。人数的にはかなり少ない分野ですが、「出版翻訳」と「産業翻訳」のどちらにも入らないものなので、この辺もちゃんと分けて欲しかったですねー。

あと、一応産業翻訳に入るのですが、「特許翻訳」という分野にも触れて欲しかったです。これはかなり特殊な翻訳になるので、専門性が高く、簡単にこなせる翻訳ではありません。ま、専門用語や言い回しを覚えてしまえば案外楽だといえなくもないのですが、とにかく期限や正確性は格段に厳しいものがあるため、過労死する翻訳者も少なからずいます (ちょっとやってましたが、しばらくやりたくありません)。おまけにつぶしがきかないっていう柔軟性の低さもありますし。ただ、翻訳業界では一番手が足りてない分野で、仕事にあぶれることはめったにないし、お金にはなります。そういった事情が書いてないようですねぇ。

あと、「就業者数(計)=33600人」となってますが、専業の人がこれだけいるとは思えないんですがねー。文芸翻訳については、「飯を食える翻訳家は全国で100人もいない」と言われていますし。そういう数字の裏側の意味をちゃんと調べないと、あまり意味がないように思えます。

  • 就くには

翻訳学校や通信教育で語学の実力を高める必要がある」って書いてあります。んー、確かに語学力は大事ですけど、それは後からでも何とかなるんですよ。それよりも専門知識の方が大事。文芸翻訳では、コンテストや出版社への持ち込みって流れは間違ってないんですが、産業翻訳ではあまり関係ないですよ。翻訳の勉強をしてきたって人よりも、別の分野で仕事して、その専門知識を生かして転職してきたって人が多いですから。半数以上は転職組じゃないですかね、まともに翻訳だけで生計を立てている人は。

  • 労働条件の特徴

ここはまあ、無難なことが書いてあります。

  • 職業プロフィール

ここも、だいたいこんな感じでしょうね。何か難しそうな位置付けって感じもしますが、必ずしもそうじゃないですよ。やっている本人は、そんなにすごい人ばっかりじゃないですし。ごくフツーの人です。ただちょっと個性の強い人が多いかも知れませんが。

全体を通してみた感じでは、翻訳をやっている人にインタビューしたりした様子はあまり見受けられないというのが実感です。数字上のデータを元に分析しただけ。もちろん、翻訳以外の職種についてはどうなっているのか分かりませんけど、あまり期待できないような気もします。

まあ、500以上の職種について調べたのですから調査にも限界があるとは思いますが、それなら各項目に専門家からのアドバイスとか意見を追加できるようにしてもいいかなって思います。中から見た感覚と外から見た感覚では、食い違っていることも多いはずですし。これから仕事を探す人は、これがすべてだって思ってしまわないようにしてもらいたいですね。

結局、仕事というのは、その世界に入ってみないと分からないことが多いんですよ。