高速電力線通信が解禁へ

総務省の電波監理審議会が、電気のコンセントを利用した電力線通信を解禁するとの答申を出しましたね。反対意見も根強いのですが、利便性を優先したのでしょう。現在通信手段は他にもいろいろあるので、無理に電力線通信を推し進める必要はないと思うのですが、産業界の意見には弱いんでしょうかね。勝手に電力線用のモデムを開発してしまい、解禁されなかったら困るから何とかしてくれっていう無責任なメーカー側の肩を持った訳です。混乱が生じたら、どう責任を取るつもりでしょうか。

電力線通信は、確かに手軽で便利な通信手段です。それは素人目にも明らかです。ただし、いいことばかりではありません。ニュースなどでも取り上げられているとおり、短波放送や電波天文観測にかなり大きな悪影響を起こします。天文に携わった人間としては、ちょっと許せません。

さらに、規格として疑問視せざるを得ない部分もあります。

一般家庭の電力線では、たこ足配線をすることは日常的な話です。通常の電子機器でも、たこ足は奨励されない訳ですが、電力線通信の場合はこの影響がもっと大きくなります。つまり、たこ足にすることで、送電力が落ち、通信速度も大きく下がるということです。専門的には、「信号減衰」が大きいということです。はっきり言って、これは致命的な問題です。電力線を導入しても、映画のダウンロードなんてたぶん無理だと思いますよ。

次に、「線路内ノイズの影響」があります。一般家電製品と同じ電力線を使う訳ですから、たとえば冷蔵庫やテレビから発生するノイズが混入してくる訳です。電線を伝ってくるものもありますが、電波として発生したノイズが電波として入り込む訳です。ノイズを出しているモデムが自らそうしたノイズに悩まされている訳です。逆に、電力線の使用により発生するノイズが一般家電製品にも悪影響を与えることは想像に難くありません。そして、こうした電磁ノイズは身体の健康にも影響を及ぼすのではないかと思われます。

こうした (屋内での) 障害は「自家障害」などと言うそうですが、答申を行った総務省の研究会では、「敢えて自家障害を考慮しない」と議事録に明記されています。えっ? つまり「自己責任で使え」ってことですよね? めちゃくちゃ無責任じゃありませんかい? 何かあっても、許可した総務省はもちろん、製品を製造した側にも責任はありませんよってことですか? 製造者責任はどうなるんですか?

みなさん、そんな製品、使いたいと思いますか? 規格も定まらないうちに勝手に大金をつぎ込んで開発した、安全性を無視した製品。便利ならそれでいいんでしょうか?

それからもうひとつ、「不平衡線路」という障害があります。電気は得意じゃないので詳しいことは分からないのですが、高速電力線通信推進協議会の「漏洩電界抑圧技術の概要.pdf」という資料によると、「通信線路の上り側と下り側の電気的特性が対称でない場合、不平衡回路となり、不平衡電流により漏洩電界が発生する」とあります。ん? よく分かりませんね。 (汗)

つまり、行きと帰りの電気の流れ (交流だからちょっとこの言い方は無理がありますが) が非対象だから、その差によって電界が漏れる (アンテナ化するって言うらしい) → ノイズが発生するってことじゃないでしょうか。これは、短波放送や電波天文観測への影響を指しているのだと思います。先ほどの自家障害とは違って、屋外での話ですね。規格上そうなっているのだから、これを根本的に解決するのは難しいでしょう。たぶん「解禁してしまえばこっちのもの」って感じじゃないでしょうか。

こういった問題が全然解決されていないし、解決される見通しもろくに立っていないのに、総務省はゴーサインを出しちゃった訳です。こんなんでいいんですか? それって、全然監督機能をなしてないんじゃないですか? やっぱりお役人的な考えしかないようですね。これも小泉改悪 (おっと) 改革の賜物でしょうか?小泉さんは何も言わないみたいですけど、もう辞めるからそんなの知らねーってとこでしょうか。。。

ただし、これらの問題をすべて解決できるのであれば、魅力的な通信手段であることには間違いありません。もっと予算をつけて、もっと公平でまともな研究を、メーカー主導でなく科学的見解を盛り込んで行ってくれれば、解決できないこともないと思うんですがね。たぶんそんなことはしないでしょうが。

あとは、利用者が電力線通信なんか使わないようにすれば、メーカーも総務省も慌てて改良しようと思うでしょう。何でも国が6年 (でしたっけ) もかけて推進してきた技術がそっぽを向かれたら、そりゃ慌てるでしょうから。

さて、みなさんはこんな電力線通信をどう思いますか? 短波放送や電波天文観測を犠牲にするほどの魅力があると思いますか? 自己責任で使いたいと思いますか? 健康に害があっても便利ならいいと思いますか? お役所の言うことだから、大丈夫だと信じますか? 有名な「お上のことに間違いはございますまいから」(森鴎外最後の一句』より) という言葉を、ここでも繰り返したいですか?