ダークマターの尻尾を掴む

先ほど、これから忙しくなるから頻繁に更新できなくなるなんて書いておきながら、また書いちゃいます(実は昨日までに大方書いておいたんですけどね)

米国時間の21日に、NASAダーク・マターの直接的な証拠を捕らえたと発表しました。チャンドラーという X 線観測衛星などを使った詳細な分析の結果、2つの銀河団が衝突した後の状態がバラバラになっていないことが分かりました。その理由を、ダーク・マターの重力で通常の物質が引き付けられているからだ考えればうまく説明ができる、としています。つまり、ダーク・マターの尻尾を掴んだってことですね。(朝日コムには「星団」とありますが、NASA などのサイトには「銀河団」とかかれています。)

銀河団同士の衝突がどういうものか、また、ダーク・マターの重力により飛散しないでいられるというのがどういうことか、言葉で説明するのは難しいですね。NASA のサイトよりも、観測チームの指揮を執ったアリゾナ大学のサイトQuickTime のアニメーションがありますので、こちらを見る方が分かりやすいでしょう。

アニメーションから分かるように、衝突前はそれぞれの銀河団において、通常の物質とダーク・マターが一様に交じり合っていました。それが衝突を経て、ダーク・マターが先に行き、通常の物質が後からくっついてくるという感じです。つまり、通常の物質はダーク・マターの重力に引っ張られて形を保ったまま、衝突後もバラバラにならずに相手の銀河団を通り抜けたということです。

ダーク・マターは、通常の物質とも、他のダーク・マターとも反応しないとされています(すべてではないですが)。そのため、衝突中はダーク・マターがどんどん先に行ってしまい、通常の物質は衝突した相手の物質の影響を受けて遅れを取る訳ですね。

今回の観測チームには、ダーク・マターの生みの親ともいえるアリゾナ大学のデニス・ザリツキー教授も含まれています。大御所がまた新しい成果を挙げたのですね。今回チーム・リーダーを務めたのも、ザリツキー教授の下でポスト・ドクの過程を終えたダグラス・クロウという天文学者です。

さてここで、ダーク・マターについてちょっとだけ説明しましょう。面倒なので、昔自分の掲示板に書き込んだものを引用しちゃいます。(自分のだから別にいいですよね。ちなみにその掲示板はすでに閉鎖しています。)

元々ダーク・マターと呼ばれていたのは、観測上の銀河内の動きと、実際に見える(可視光だけとは限りませんが)物質の量とが計算上合わないため、「ミッシング・マス」として唱えられたものです。その後、観測結果とは合わない理論上の「あるべき」物質が他にもいろいろ出てきて、それをまとめて(というか、混同して)ダーク・マターと呼ぶようになったのです。例えば、現在では「ホット・ダーク・マター」呼ばれるニュートリノなんかも、ミッシング・マスとは異なるダーク・マターなんです。

また、ダーク・マターと呼ばれるものの中でも、銀河などの構造に関係するものと、もっともっと大きな宇宙全体の規模での構造に関係するものが同じように扱われてしまっているため、混乱が起きています(研究者はちゃんと認識していますが)。

さらに、ダーク・マター(どれもこれも含めて)という物質(正確には、通常の物質とは異なる非バリオンと呼ばれるものも含む)と「ダーク・エネルギー」とは、まったく異質のものですが、これも混乱されている状況にあります。

ダーク・エネルギーの考えは、アインシュタインによる宇宙定数の導入が有名です(これが最初の例かどうかは知りませんが)。つまり、重力と釣り合うような「反重力」の効果を起こすエネルギーとしてのダーク・エネルギーです。この考えは、宇宙が膨張していることがはっきりしたために否定され、アインシュタインも間違いだったと認めています。でも、こうした反重力の効果を及ぼすダーク・エネルギーの考え方自体は、観測結果と理論の辻褄を合わせるために、今でも用いられています。ま、計算を合わせるためのズルをしているようなもんですね。「それが何か」って、全然わからないんですから。

ダーク・マターも、これまでは同じように「ズル」をしていたようなものです。「あるはずだ」としか言えなかったんですよ。それが今回の観測によって、ようやくちゃんと存在しているよと言えるようになった訳です。

でも、NASA が言うように、これが決定的な証拠だと言い切れるでしょうか?ちょっと疑問に思います。少なくとも複数の同様な観測結果が見つからない限り、他の要因によってこうした状態が生まれたと言うことは否定できません。また、ダーク・マターが確かに存在するとしても、「修正ニュートン力学のような効果も少しはあるのかも知れません。ニュートン力学は、実はまだ完全に全宇宙で通用するとは確かめられていないのですから(ミリ単位以下の世界においても、確かまだ実証されてなかったと思います)。すべての現象を何か1つの理論だけでうまく説明できるとは限らないですからね。

例えば大陸移動説ですが、これはめちゃくちゃ簡単に言うと、地殻がマントルの動きによって流されているということです。でも、北米大陸は中心部が自分の重みで両脇に流れ出しており、そうした影響によっても動いているんです。北米中心部に古い地層が露出しているのは、そうした自重による流れ出しのため、古い内部の地層が見えてきたということなんですね。だから、マントルの動きだけではすべてを正確には説明できない。これと同じことが、宇宙論でも言えるわけです。

このところ、天文学における新しい発見や理論の発表が続いています。いかに人間の持っている知識がわずかで、宇宙が大きいのかということをまざまざと見せ付けられている気がします。一方で、今まで知らなかったことが分かってくると、探究心がくすぐられますね。そんな時代に生まれたことは、とても幸せです。