科学は人間臭い学問

惑星の数が増えるかもって先日書きましたが、やはりいろいろなところで反響があるみたいですね。学問的にどうかっていうよりも、社会的影響を心配する声が大きいというのは興味深いところです。

でも、こういうことは実は昔もあって、現在でも混乱が続いているものもあるんです。それは「物体が速度を増すとその質量も増す」というもの。

随分前に、昔やっていたサイトの中にある「天文まめ知識」の初回に書いたのですが、これは「正しくない」言い方です。正確には、「物体が速度を増すとその運動量も増す」なんですね。ただし、数学的には式を都合のいいように分解できるので、そう解釈することもできなくはないという一面があります。そして、この正確な意味を一般の人に説明することが難しいと思われた時代だったため、「分かりやすい方がいいじゃん」って感じで学会がそう説明しちゃったんですね。後になって修正したものの、もう手遅れ。おかげで未だに、この間違いをもっともらしく説明している解説本とかが出回っています。式の意味というか、物理をちゃんと知らないのに、人から見聞きしたことだけで「知ったような気」になって解説している本ですね。結構あります。

他にも、地球の周りを回っている月の軌道 太陽から見て、(地球の周りを回っている)月の軌道はどう見えるかを描くと、螺旋として描いている本や番組などがあります。月の軌道が実際にはどうなるのか、よーく考えると結構深いものがあります。先入観を捨てないと分からないですよ。あとは、空はなぜ暗いのか。これは「宇宙が有限だから」としている解説本が多くありますが、本当の「主たる理由」は「宇宙が膨張しているから」なんです。これもよく目にする間違いですね。

話を元に戻すと、惑星を増やすかどうかという議論をしている委員会には、惑星学の専門家だけではなくて、(朝日コムによると)作家とか科学史家とかが加わっているそうで、その点から見ても科学が人間臭い学問だなってことがよく分かります。つまり、科学は人間のつくったものであって、(持論ですが)「科学とは自然を理解するための道具」でしかないんです。道具をどう使うかでその意味も違ってくるし、都合のいい道具だけを好んで使う危険性もあります。だからもっと科学をよく知っておく必要があるんですよね。

他人から「旦那、これは上玉でっせ」と言われて鵜呑みにするのではなく、眼力をつける努力をしないと。ま、アンティークの目利きになるのと同じです。よくわからないのなら、誰かの一言をそのまま信用しない方がいいということ。学校の先生の言うことも、たまには疑って質問してみるのもいいことです(たまにはですよ、すべてじゃないですよ)。先生だって、教科書や教育指導要綱から外れることを教えられない立場にありますから、(教科書に書いてあるから)事実と違うことを教えることもあるんです。

そんなのうそだぁーって思うかも知れませんけど、実際そういうことはありました。高校のときの地学の教科書で(あ、歳がばれそう)、台風の中の空気の動きについて書かれていたことですが、低気圧の中心だからどんどん風が集まってくるが、本当の中心部(台風の目)では回転するだけで上昇気流も下降気流もない、というようなことを説明していました。先生も自信ありげにそう説いていました。でも、集まってきた空気は逃げ場が必要です。どこかに逃がしてやらないとならない。ブラック・ホールじゃないんだから、いくらでも空気を飲み込むことはできませんよね。だから中心部では上昇気流が発生するのでは?そう思って調べたら、やっぱりそうでした。

当時気象研究者として第一人者であった根本順吉氏だったと思うのですが(違ってたらごめんなさい)、ある科学雑誌の中で教科書にそう書かれていることは間違いだと指摘してました。でも、教科書の改訂が10年に一度しかなされないので、間違ったまま記載されつづけていたと。これ、本当の話ですよ。ちなみに先生にその証拠をつきつけたら、ちょっとその本を見せてくれと言ったっきり、訂正も何もしませんでした。プライドを傷つけたからかなぁ。でも、それじゃ良くないと思うんですがね。

兎にも角にも、科学なんてそんなもんです。使い方を間違えなければ強力な武器になりますが、ヘタをすると振り回されることになります。何でもそうですが、何か1つのことを過信してはダメってことですね。

余談ですが、国際天文学連合のサイトが現地時間の18日から21日までダウンし、ミラー・サイトで情報を提供していくそうです。反響が大きいため、アクセスが殺到してサーバーが負荷に耐えられなくなる事態を避けるためみたいです。それだけ世界中が注目しているんですね。

でも、多くの人が科学に興味を持つようになるのはいいことです。もっともっと科学に興味を持てば、戦争なんてなくなるかも知れないのになぁ。戦争っていうのは、科学という道具を間違って使っている最たる例ですよね。