麻生発言の捏造に見る、情報テロと Twitter の危うい関係

昨日の記事で書いた麻生さんの「金がねえなら結婚しない方がいい」云々という発言ですが、これが事実ではなく、本当はもっとまっとうなことを言っていたという話が Twitter や2チャンネルで流れたそうです。それを、ある情報通のアルファ・ブロガーの方がうかつにも真に受けてしまい、マスコミの情報操作に騙されたかも知れないと自身のブログで書いてしまいました。

Twitter や2チャンネルで流れたのは、こういうものだそうです。

会場の様子こんな感じだった

「自民、民主ともに子育て支援は考えているがそれ以前に結婚資金を確保できない若者が多く、結婚の遅れが少子化につながっているのではないか」

「たしかにそういう面もある。ただ、男女の働き方が変わりつつあるなかで、経済的な問題とは別に、いわゆる結婚適齢期、とくに女性のね、が上がりつつある、という流れも忘れてはならない。そういう意味で、その 若者 といわれたけど男女の稼ぎを総合して考えるべきだと思うね。そういう女性の社会進出、夫と妻が働き、そして育児をするという新しい家族の形態を考慮したうえで、どちらかが稼ぎのない状態での結婚というのはすべきではないんじゃないの?これからは。男女の平等という観点からも、パートナーから尊敬を得られないかもしれんよ」

(「昨日の麻生氏発言の要旨 (Twitterから転載) - 雑種路線でいこう」より)


しかーし、実はこれは大嘘でした。現場で録音されたテープから文字を起こした結果、麻生さんが実際に話していたことは、こうだったそうです。

でぇ3つ目。立教大学、結婚。えー、金がねーから結婚できねーとかいう話なんだけど。そりゃ金がねーで結婚はしねぇほうがええんで、わーるね? (会場 笑) そりゃ俺もそう思う。あー、そりゃあ迂闊にそんなこたぁしない方がいい。でー、金がぁ俺は、ないほうじゃなかった。だけど結婚は遅かったから、俺は43まで結婚してないからね。だから、あのー早い、(金が)あるからする、ないからしないー、ってもんでもない。こらぁ人それぞれ、だと思うから。だから、こらぁ、迂闊にはいえないところだと思うけれども、ある程度生活をしていく いけるというものがないと、やっぱり自信がない。で、女性からみても、旦那を見てやっぱり尊敬するところ、やっぱりしっかり働いているってか尊敬の対象となる、日本では、日本ではね。従って、きちっとした仕事を持って、きちっとした稼ぎをやってる、ということがぁ、やっぱり結婚して女性が、生活をずっとしていくに当たって、相手の、男性から女性に対する、女性から男性に対する、両方だよ、両方がやっぱり尊敬の念が持てるか持てないかというのはすごく大きいと思うね。そいで稼ぎが全然なくて、尊敬の対象になるかというと、よほど、何かないとなかなか難しいんじゃないかという感じがするんで、稼げるようになった上で結婚した方がいいというのは俺も全くそう思う。

(「首相「金ないのに結婚するな」テープ起こし - 雑種路線でいこう」より  http://d.hatena.ne.jp/mkusunok/20090824/tape)


これで分かることは、2チャンネルなどで流れていた内容は完全に捏造されているということです。だいたい、どの新聞でも一切書かれていない内容が入っているし、官房長官も麻生発言をかばっています (=つまり報道された内容を否定していない)。麻生さん自身も、報道が間違っているとは言ってなさそうですしね。



で、この捏造内容はぱっと見、麻生さんを信奉する誰かが、マスコミや麻生叩きをしている連中 (ん? 呼んだ?) に対抗するために書いたようにも見えます。でも、よく考えると、そうじゃないんです。

その理由を書く前に、この騒ぎで炎上してしまった「雑種路線でいこう」さんでのコメントを冷静に見てみると、議論からはずれているとはいえ、その通りだなと思うことがありました。

・麻生さんは学生が問うた「少子化」の問題には答えず、政治家や総理大臣としてではなく、単なる個人的な結婚観について述べただけ。「政治家として失格では?」


これは他のコメントに対して挑発しているコメント (の概要) の一部なんですが、そういう姿勢はさておき、確かに麻生さんはちゃんと質問に答えてない。これは普段の記者会見の時なんかでもそうなので、わざと的を外しているのかも知れないし、本当に質問の意味を理解できなかったのかも知れませんが、学生との対談でそんなことをしているようでは首相としてどうかと思いますね。それとも、学生がそんなことを見抜ける訳がないと見下しているのかな。

で、何でこのコメントだけを抜き出したかというと、麻生さんがこの程度の答弁しかできないのに、2チャンネルで流れたすばらしい発言をできる訳がないんじゃないかって思ったからです。つまり、2チャンネルに流した捏造発言を作った人は、麻生さんよりまともなことが書けるし、社会情勢などもちゃんと理解している、それなりの知識をもった人だろうと推測できるわけです。そして、そういう人がネット上で、時間をかけて知恵を絞って、こういう捏造発言を頑張って作っている訳ですよ。

言い換えれば、それだけのことができる人をネット上で非生産的な遊びごとしかできないような社会に、今の日本はなってしまったということです。思うに、これを書いた人は、麻生さんを持ち上げようとしていた訳でなく、単に騒いでくれる様子を見たかっただけじゃないかと思うわけです。言ってみれば、愉快犯というところです。

でもね、選挙時においてこういうこと (=首相発言の捏造) をするということは、場合によっては戦局を変えてしまうほど一方的な煽動をしていることにもつながり、公職選挙法に触れる可能性もあるんですよ。これは犯罪行為として、見せしめのために警察などが動くことさえあり得るわけです。果たして、捏造犯人はそこまで考えていたでしょうか? たぶん、考えてなかったでしょうね。

愉快犯は、知的犯罪を犯すことが多いですが、大抵の場合、頭の中だけで考えているので、現実には思ったとおりにならず足を出してつかまることが多いと思います。それだけ、「知識」はあっても社会的には「幼稚」なんです。だから騒いでいるのを見るのが面白いんでしょうね。

でも、そういう騒ぎを起こす人や、騒ぎを聞きつけて野次馬になる人、騒ぎに乗じて混乱をさらに拡大させようとする人が、ネットの世界でもやはりいる訳です。このように、人が増えれば増えるほど、(ネット) 社会は混乱を好むかのように騒ぎが発生するように思えます。勝手に名付ければ、これは「社会カオス」という状態でしょう。物理学の世界ではカオス理論は自然の理と理解されていますが、社会もまた、ある程度の大きさを超えるとカオス化していくんじゃないでしょうか。

そしてもっと怖いことは、それを悪用する「情報テロ」が起きることです。実際、この捏造は、悪意はなかったかも知れませんが、政治情勢を変えてしまいかねない情報操作に繋がるものです。それを、自宅でテレビでも観ながら、ヒヒヒと笑って簡単に出来てしまうのがネットの恐ろしさです。

さらに、こうした状況を簡単に作り出せるようになったのは、Twitter のようなリアルタイムで広がる「噂話」が出来るようになったからじゃないでしょうか。不特定多数の人に、意図的に不正確な情報を一気に広めてしまうことが可能な Twitter は、情報テロに簡単に悪用されてしまう可能性があると思うんですよ。

戦争中に「敵が攻めてきた」と誰かが Twitter で流せば、恐らく戦場は混乱に陥るでしょう。北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射したと誰かが書けば、それを信じて混乱する人も出てくるでしょう。2チャンネルでもデマを流すことはできますが、自分が見なければ情報を得ることはできません。でも Twitter は、リアルタイムで「つぶやき」が勝手に届けられますから、広まり方も桁違いに早く広範囲になるはずです。

これが考え過ぎであればいいのですが、Twitter のようなソーシャルネットワークが野放しになれば、いつかこの種の問題が出てくると思います。それを防ぐのは、規制をかけたり、さらなる情報合戦を展開することによってではなく、実際の社会と同じように人々に「モラル」を持たせ、しっかりした教育をしていくことだと思います。ただ、実際の社会も、モラルが薄れていることは確かですが。。。

そういう意味で、新しい政権をどこが取るにしても、もっとモラルのある社会を取り戻せるような政治を行ってもらいたいものです。自民党民主党の戦いが「不審」と「不安」という言葉で表現されているようですが、「不安」は「自信」に変えることもできます。でも、失墜した信用を取り戻すことは一筋縄ではいきません。ここまで「不審」を高めた自民党は、少なくともまず自分達がモラルを取り戻すことから始めてもらいたいものです。