夏草や兵達が夢のあと

これは今更説明するまでもなく、松尾芭蕉奥の細道で詠んだ有名な句ですが、今日の GM (と先日のクライスラー) の破綻は (正式手続きは明日ですが)、まさにこの平泉での景色を思わせるかのような出来事だと思います。

栄華に溺れ、自尊心に固執し、時代の変化に対応してこなかった。。。いや、変化を握りつぶして、己の利益を守ることに腐心し、気がつけば見下していたライバル達に追い詰められ、最後まで変わることはなかった強欲さに自らが足を取られていったんです。



GM が本格的に電気自動車の開発に乗り出しのはかなり前のことで、EV1という、それはそれは素晴らしい電気自動車を10年以上も前に売り出していたんです。その開発力、そして技術力は見事だったといえます。クリントン政権の下、巨額の税金をつぎ込んでアメリカの国力を世界に見せ付けた成果だったのですが、GM は実は開発費をほとんど出してません。

実際、GM の狙いは、この電気自動車を普及させることじゃありませんでした。カリフォルニア州での厳しい排ガス規制にとりあえず対処し、裏ではガソリン車をさらに普及させるために随分とエゴいことをしてたんです。だって、ガソリン車の方が作るのに部品も手間がかかり、壊れやすいから修理も必要になるため、GM の労働者は仕事を保証され、部品メーカーや修理工場にもお客が入る。つまり自動車業界にとっては、特に世界最大の GM にとっては、消費者にとって経済的な電気自動車より、お金を使わせるガソリン車を普及させる方がずっと美味しい話なんです。「環境破壊なんて知るかっ!」ってとこですね。

そして、互いの利益が一致した石油業界、その石油業界を利用して私腹を肥やしたかったブッシュ政権の閣僚らが手を組みました。ブッシュ政権は、京都議定書への参加を拒否し、イラクに侵攻して石油利権を手に入れ、まさにやりたい放題でした。さらに GM は、石油業界と政権を味方につけたことで、厳しい規制を課しているカリフォルニアを訴え、その規制を骨抜きにしてしまいます。

こうして、クリントン政権下で進められた (GM にとっては全然元手がかかっていない) EV1の開発を放棄した GM は、なんと EV1をほぼすべて回収し、スクラップにしてしまった訳です。。。  (そこまでやるかぁ)

以上は、「Who Killed Electric Car」(誰が電気自動車を殺したのか) というドキュメンタリーに出てくる話なのですが、ゴア元副大統領にノーベル賞を取らせた「不都合な真実」と同様、誰の目にも納得のいく内容です。つまり、GM は自分で自分の首を絞めたことになります。まあ、自業自得ですから、その影響を心配する人はいても、同情する声はほとんど皆無です。

でもなぜ、GM は EV1の技術までも放棄してしまったんでしょうか? 研究開発を細々とでも続けておけば、ガソリンが高騰した昨年にその強みを発揮して、今日の破綻の日を迎えることはなかったかも知れません。ただ、目の前の利益と、強硬な全米自動車労働組合の圧力に負けて、先を読み間違えてしまったんですね。

そして今残るものは、大量の解雇者と生産ラインが止まったままの人気のない巨大工場、契約を失った販売店、そして国民の血税で賄った、今ではほとんど価値のない紙切れと化した GM の株式です。まさに、夏草がさびしげに、夢や祭りの後のさびしい風の中で、ただじっとたたずんでいるといったところでしょうか。踏みつけられても、その地を離れることすらできず、ただただ、じっと耐えるだけです。



ライバルの日本車や韓国車、そしてヨーロッパのメーカーも、それぞれに苦労をしていますが、長い間業界を牛耳り、政府や石油業界といった世界規模の勢力をも動かしてきたおごりに足元をすくわれた GMクライスラーの二の舞にならないよう、覇権争いにうつつを抜かさないでもらいたいものです。そんなことをすれば、自らはもちろん、結局はすべての人、そして地球そのものに、大きな損害を与えてしまうんですから。ただ、「喉もと過ぎれば熱さ忘れる」の言葉のように、いつかまた同じことが繰り返される気がしてなりません。

でも、日本の政治家なんて巻き込んだところで、そんな大きなことはどうせできないでしょうから、日本のメーカーがこういう事態に追い込まれることはないかも知れませんね。ろくに実力もない人が日本で政治の実権を握っていますが、これはある意味、巨悪を育むこともできないのだと考えれば (小さな悪事は数え切れないほどしてるでしょうが)、少しは腹も立たずに済むでしょう。

これって、プラス思考なんでしょうかね。それともマイナス思考なんでしょうか。



ところで、この影響で為替はどうなるんでしょうか? 生活に直結するものだけに、今後の動向が気になります。アメリカドルの基軸通貨としての価値は間違いなく下がっているわけですが、カナダドルアメリカの影響を受けやすい割に、なかなか先が読めません。日本円も、経済理論的には上がっていいはずですが、政治介入や投機筋の思惑などで人為的に操作されてしまうため、プロでも読むのは難しいんでしょうね。

あー、こんな時代に誰がした! 夢の後に散った兵どもの頭だけは、今でものうのうとしているのが、戦国時代との違いなのかなって気がします。それって、今の方が優れた時代だと言えるんでしょうか? 人間は、戦国の時代から進歩したんでしょうか。。。