金融危機の影響

先日、しばらく前から発注が予定されていた某大手 IT 企業からの案件が土壇場で延期になってしまいました。1次下請け業者の説明によると、その IT 企業が予算を抑えるため、外注の量を調整しているのだそうです。厳しい業績見通しの発表が相次ぐこの IT 業界の中で比較的堅調さを維持していたこの会社がまさかの外注ストップ。ということは、他社からの仕事も今後減っていくことは間違いないでしょう。だんだん、不況の影響が現れてきました。

思えば、2000年の IT バブル崩壊の時にも、その影響が年末あたりからありました。レギュラーでやっていたニュース記事なども発注本数が減って、担当枠が減らされたり、完全にあぶれてしまった人も少なからずいました。もう何年も前からずっとレギュラーで頑張っていた人をポンポン切って、新しい人 (=まだ単価が安い) に入れ替えたりもしてました。

その時は、運良くレギュラー枠をいくらか減らされた程度で済みましたが、右往左往して大変だったことを思い出します。会社に就職しようにも、履歴書を100通以上送って面接にこぎつけたのはたった2社のみ。そのうち1社は最終面接までいったものの、結局だめでした。たぶん、今回も同様の事が起きるのではないでしょうか。  (そろそろ覚悟しておかなければ)

そして、こういう経済危機のあおりを一番食うのは、末端の翻訳者です。発注側 (1次クライアント) と作業者 (=翻訳者) の間に入る翻訳会社 (2次クライアント*1、3次クライアント、etc.) は、上流のクライアントが減らした料金をそのまま翻訳者の支払いに反映させることができます。そのため、翻訳会社は仕事量は減るものの、マージンは今までどおりに確保しようと思えばできるわけです。

これに対して、翻訳者の間では、仕事がなくなることを恐れて単価を下げる人も出てくるため、強気で単価の維持を主張できる人は限られます。その結果、業界全体で単価が下がってしまう構図が出来上がります。

さらに、一度下げられた単価は、景気が回復してもまず絶対に上げてくれません。そうやって、(きつい言葉で言えば) 下請けいじめが続き、作業量や要求される知識・ツールなどが増えても単価はどんどん下がっていくわけです。

もちろん、これは必ず起きるわけではなくて、人材を大切にする翻訳会社は単価を下げたりしません。2000年の時は、むしろ上げてくれた会社もありました。それまでの実績や人間関係、その会社の方針などが影響してくるんでしょうね。まあ、力のない会社ほど下にしわ寄せをさせていくもので、そういう会社は結局潰れてしまったり、仕事量が大幅に減ってしまうところもありました。後から謝ってきた会社もありましたし。



まあ、これは翻訳業界に限ったことではなく、ほぼすべての業種で起きていることでしょう。でも、フリーランス翻訳者のほとんどは個人でやっている零細企業です。組合もなければ、法的な保護もないに等しい状態です。自営業のため、仕事がなくなっても失業保険さえもらえません。本当に生き残るのが大変です。

かといって、今更会社に入ろうとは思いません (というか、もう年齢的にどこも雇ってくれません)。これまでに勤めた会社はいくつもありますが、そのうち3社が立て続けに倒産しています。つまり、会社に勤めていても、いつ何が起きるか分からないわけです。1つの会社で1つの仕事だけをしていて、急に首を切られてしまったら、再就職なんて (特にバンクーバーでは) まず見込めません。それなら、手に職を付けておいた方が強いと思うんです。定年もないですし (一生働けって尻を叩かれてしまいますけど/笑)

そういう訳で翻訳をやっていこうと決めたのは自分だし、そのことをグダグダ言うのは筋違いなわけですが、実際に仕事が減ってくるとやはり少し弱気になります。蓄えがある訳でもないし、むしろモーゲージの支払いも決して楽ではない。職場の同僚と憂さ晴らしに飲んで騒いで、なんてことも、同僚がいないからできないので、ストレスはたまる一方。つながりのある翻訳者は、バンクーバーからいなくなってしまったり、元々日本在住の人が多いので、こういう時には孤独を感じますね。



今朝のニュースでは、カナダもいよいよ Recession (景気後退期) に入ったと報じていました。日本と同様、先進国では比較的傷口は浅かったのですが、お隣のアメリカがこれだけ崩れると、どうしても足を引っ張られます。自動車メーカーのビッグ3にしても、カナダに沢山の工場があるため、閉鎖されれば街ごと失業者の山となるところもあります。公的資金をつぎ込んでも、アメリカ本社が躓けば (しかもその可能性は非常に大きい)、全部無駄になりますし。



そういえば、今回の不況が報じられて以降、アメリカとカナダの会社から仕事の話が来てません。支払いも、いつもなら納品2週間後くらいで振り込んでくれていたカナダの会社も、先日は契約上ギリギリの期限ぴったりに振り込んできました。それほど大きな額ではなかったのにも関わらずです。恐らく、キャッシュフローが悪くなっているんでしょう。

この先、小さな翻訳会社はどんどん淘汰されていくと思いますが、仕事をしても支払いを受ける前に潰れて貧乏くじを引かないように用心しないといけません。とはいえ、こちらでそうした状況を把握することはほぼ100%無理です。危ないかもと何となく思ったからと言って、仕事を断れるほど余裕がある訳でもないですし。

こうなると、被害を最小限に抑えるには、投資と同じで、なるべく多くの会社から仕事をもらい、リスクを分散するしかないでしょうね。

そんな状況なので、最近はまた新しい取引先を見つけようとせっせと応募したりしてますが、合格してもなかなか仕事が回ってきません。景気のいい時でも、新しい取引先からすぐに仕事が来ることはまずないですから、特に今の状況では期待できないですね。なかなか厳しいものです。

今はまだ生活が回っているのでいいんですが、この先もっと厳しい経済状況になる見通しですから、定収入のない身分としては別の手段も真剣に考えなければならないかも知れません。オバマ政権でアメリカ経済がすぐに好転するとは思えないですから、多少の覚悟をしておく必要はあるでしょうね。

まさに、冬の時代です。

*1:注:2次クライアント=1次下請け業者のことですが、翻訳者サイドから見ると全部「クライアント」ということになります。