政府からも顧客からも利益をむさぼるカナダの銀行

アメリカのサブプライム問題に端を発した世界規模の金融不安ですが、もちろんカナダにも影響が出始めています。しかし、アメリカほど危機感を抱いているカナダの一般消費者は少ないのかも知れません。とはいえ、住宅価格の暴落はわずか1年あまりで50%近い下げ幅を記録するなど、尋常な状況ではありません。この影響で破産したり住宅の差し押さえを受けた人も出てきているようです。

こうした中、選挙を14日に控え、現政権の継続を必死に訴える保守党のハーパー首相は、ようやく対策に乗り出しました。。。  ってか、


遅いよ!


さてその対策ですが、まずは10月8日 (日本時間) に米連邦準備制度理事会 (FRB) や欧州中央銀行 (ECB) を含めた6か国の主要中央銀行が協調策としてプライムレートの利下げを発表した中に、なにげに入ってました。このときの下げ幅は50 basis point (つまり0.5%) です。

これを受けてカナダの主要な商業銀行は直ちに貸し出しレートの引き下げを表明したものの、下げ幅は中央銀行の半分である25 basis point (つまり0.25%) 止まりで、しかも適用は日本の10日からでした。それも、すべての銀行が同じ下げ幅です。どうみても、銀行同士で申し合わせているとしか考えられません。

つまり、
政府が国民のために下げたレートを銀行が半分カットして、利益を挙げようとした
わけです。これには国民から大きな批判を受けました。政府も苦虫を噛み潰したような感じでした。

それでも銀行は態度を変えないため、政府は250億カナダドルで銀行から住宅ローンを買い取る方針を発表し、銀行に利下げの圧力をかけました (政府はこれを、税金を投入する「bailout じゃない」と言って選挙への影響を気にかけているようですが、どうみても bailout でしょう!)。これにより、ようやく銀行がさらなる利下げを発表し、多くは本来の50 basis point 下げになるようレートを設定し直しました。しかし、一部の銀行はまだ50 basis point の下げになっていません。合計で40 basis point の下げ幅に止まっています。つまり、その利幅で儲けを得ているんです。この中には、大手の TD Canada TrustCIBC が含まれます。

(まあ、少し銀行の立場に立って考えてあげると、こうした金融危機の時には銀行もお金を借りずらくなっており、資金調達にお金がかかってしまうため、そのコストを吸収するためにどこかで貸出金利を上げないとならない。そのためにモーゲージレートを上げるしかなかったという事情もあると思います。でも、一番の弱者である一般消費者向けのモーゲージに利率を上乗せしなくても、他の方法で賄うべきですよね。)



幸い、うちが使っている銀行は2回の利下げできちんと合計50 basis point 下げましたが、これを発表したのは10日 (日本の11日) なのに、適用は14日からです (13日は Thanksgiving Day でお休みなので)その間に新たにモーゲージを契約したり更新した場合は、高いレートが適用されます。

で、銀行としては、少しでも儲けを大きくしたいわけです。今回の利下げは、本当はやりたくなかったのに、選挙を控えた与党や政府、そして国民の圧力によってしぶしぶ行ったわけです。だから、金融事情に詳しくない人には、14日よりも前に契約をさせちゃおうと考えているようです。

実際、うちにそういう電話がかかってきました。10日の夕方、つまり昨日のことです。



先日ちょっと書きましたが、うちは現在組んでいるモーゲージが今月中に切れるので、そのリニューアルをするか、別の銀行で借り換えを行う必要があります*1。とりあえずはリニューアルの方向で考えており、そのことで銀行の担当者とのアポを14日以降にすでに取ってあります。

それなのに、その銀行の支店のマネージャから電話があり、数分の時間があるならちょっと電話くださいって留守電が入っていたんですよ。特に問題があったような言い方でもなく、とにかく話がしたいという感じでした。

我が家にはリニューアルに関する資料がその銀行から届いており、担当者とのアポも取ってあるのに、こんな留守電をしてくること自体、おかしなことです。何らかの情報漏えいで、詐欺グループがかけてきたとも考えられますが (電話番号は1−800とかじゃないし、名前も Unknown だったしなぁ)、恐らくは、レートが下がる14日よりも前に契約させたいという考えからでしょう。リニューアルの場合は、本人確認さえできれば、(条件さえ満たせば) 電話で簡単に済ませられますから。

これだけ一般の人が困っている状況なのに、
さらに自分達の儲けのことしか考えない銀行って!   (怒!)


もちろん、すべての行員がそうだとは言いませんが、プライムレートの下げ幅を半分にするような経営陣が運営するカナダの銀行は、あまりに人を馬鹿にしているように思えます。できるなら別の銀行に変えたいところですが、カナダの銀行はどこも同じようなもの。外資系の銀行という手もありますが、どんな銀行でもいつ破綻するか分からないこのご時世、何かあった時に政府の保護を期待できない外資系から借りるのは無謀です。つまり、うちには今、リニューアル以外に選択肢がないってことです。 orz

ただ、うちがラッキーなのは、こうした利下げが行われた後でリニューアルをできることと (それでも前回更新時より2%近く上がってますが)、そして、購入した時期が不動産バブルの前だったので、現在でも不動産価値は購入時 (モーゲージ設定時) の倍近くあるということです。特に、不動産価値が購入時よりも高いというのは、非常にラッキーなことです。これは単に「儲け」があるということではなく、リニューアルの場合には大きな問題になるんです。意外に気にしてない人もいるようなので、ちょっと説明しましょう。



いくら不動産価値が倍近くあるといっても、今は不動産バブルが崩壊したため、売りに出しても誰も買ってくれません。先月までの段階で、バンクーバーとその周辺地域だけでも売り出し物件が2万件を超えて登録されているようですが、一向に売れる気配はないそうです。売主は価格をどんどん引き下げていますが、それでも売れない。そのため多くの売主は、投売りするか、売却を諦めているようです。

こうした状況で、例えば不動産バブル絶頂期に家を購入した場合、それに伴ってモーゲージを組んだ時よりも、不動産価値が下がってしまっているわけです。すると、お金を貸し出す銀行としては、担保にとる物件が貸したお金よりも低い価値しかなくなってしまうため、追加担保を取る必要ができてます。これは銀行が悪いわけではないですが、借り手側はたまったものじゃありません。

この際、追加担保を用意できない場合は、最悪その物件を差し押さえられ、競売にかけられます。もちろん、安く買い叩かれてしまいますから、銀行は貸したお金を十分に取り戻すことができず、その差額をモーゲージ契約者に請求します。

つまり、購入時よりも不動産価値が下がっている物件のモーゲージをリニューアルするには、(1) 追加担保を用意するか、それができない場合は (2) 物件を差し押さえられて家を失い、さらに売却損分の支払いを請求される、ということになります。もちろん、 (3) リニューアル時に残りの借入金を現在の不動産価値程度になるように現金払いでもできれば話は別ですが、そんなことができるのなら、そもそもモーゲージなんて組んでませんよね。

また、別の銀行で借り換え (つまり新規契約) を行おうと思った場合、昨今の金融事情から貸し倒れを防ぐため、審査はもっと厳しくなります。少なくとも大手銀行でモーゲージを組むことは (上記のような人は) できないでしょうから、モーゲージ専門の金融機関に頼ることになるでしょうが、そういうところは破綻する可能性が高い (もともとアメリカのファニーメイフレディマックという住宅金融公庫の破綻が今の金融不安の始まりですから)。

というわけで、モーゲージのリニューアル時にうちの不動産価値が購入時よりも高くなっていることは、家を失うことも破産することもなく済みそうだということで、ラッキーなんです。

逆に言えば、不動産価格が下落傾向にある時に家を購入したり買い替えたりすることは、非常にリスキーな行為だってことです。それでも、不動産バブル期に家が欲しくて無理して購入した人がたくさんいました。本来そういうことを止めてあげるのがリアルターの役割なのですが、彼らはむしろ購入を勧め、自分達だけ儲けていました。今は売買件数が激減してきたので、リアルターがその報いを受けている状態ですね。



それにしても、まさかこんなものすごい金融不安が世界を襲うとは誰も予想できなかったでしょうね (債権という名の紙切れをお金に換えてきた魔法が切れただけで、随分前から警鐘が鳴らされていたわけですけど)。そして、これがいつまで続くかも懸念されます。今はまだ、株価下落程度しか影響のない日本ですが、現在すでに利下げすることもできない程超低金利のため、何かあっても政府はこれといった決め手を打つことができず、大変なことになるかも知れませんね。これは欧米の出来事を対岸の火事とせず、一般家庭でもいざという時の対策を考えておかないと、生き残れないかも知れませんよ (日本政府が国民生活を優先して助けてくれるとは、これまでの施策からとても思えないですからね)

うちも、日本からの仕事が結構あるので、取引先が潰れたりでもしたら死活問題です。何とか、早くこの異常事態が収まることを祈るしかないですね。



みなさん、お互いに気をつけましょう。    (人生、日々是綱渡り)

*1:注:カナダのモーゲージは、たとえ25年ローンだとしても、実際の契約は3年とか5年とかで行い、その都度更新していく形をとります。そのため金利の変動に影響を受けやすく、今回のような金融危機では多くの人が家を失う結果につながっています。