お金の力

お金というのは、いつの世でも扱いづらいものです。なければ困るし、あり過ぎても嫉妬を招く。人類が発明したものの中で、これほど便利で、これほどやっかいなものはないのではないでしょうか。

北米は訴訟社会と言われますが、本当にびっくりするような訴訟がたくさんあります。例えば、盗みに入ろうとして屋根を伝っていったら穴があいていて落ちてしまい、怪我をしたその泥棒は、家主が屋根を修理していなかったから怪我をしたのだと訴えました。KKK に象徴される人種差別主義団体が、国連の人権擁護の動きに対して、自分達を差別していると訴えたこともあります。また身近なところでは、貸した20ドル (2千円ちょっと) をいつまでも返さないからと、父親が息子を訴えた話もあります。

こうした訴訟には頭をかしげてしまいますが、お金を返さない息子を訴えるというのは、血のつながりよりもお金のつながりの方が大切だということを示しています。誤解を恐れずに言うなら、お金の大切さを息子に分からせるために起こした訴訟とも言えます。たかが20ドルでも、それがたとえ親からであれ、簡単に手に入るものだと思い込んでいること自体が問題なのです

最近日本では、肉親同士のお金の問題で最高裁まで争う、まさに「骨肉の争い」に至った事件がニュースになっていますね。お金の問題は親子だろうが兄弟だろうが容赦せず敵意を剥き出しにし、人を変えてしまいます。怖いですね。

先日は、母親が亡くなってしまった孫の後見人になった祖母が、他の一族と口裏を合わせて孫のお金を騙し取っていた事件がありました。裁判では、『直系血族が盗みや横領などで有罪となっても刑が免除される「親族相盗」の特例』 (朝日コムより引用) の適用を巡って争われたといいますが、この特例の存在自体がおかしいと思いませんか? 互いの同意をもって貸し借りをしたのならまだしも、初めから騙し取ろうとしていた人にもこんな特例が適用されるのなら、それこそ相続争いを助長しているようなものです。

今朝のニュースでは、60年間実子として育ててきた次男を98歳の母親が、今になって親子関係がないことを認めさせようとして起こした訴えが却下された記事があります。この母親は次男に対して、実子ではなかったことを訴訟を起こす直前まで隠していました。本心から実子として育てていたからのようです。この年齢の母親が今になってそんなことを求めて裁判を起こすはずがりません。実は長男が、相続を独り占めするために起こしたらしいと裁判所では判断しています。まあ、それ以外考えられないですね。

これがお金の力です。お金のためなら、60年間一緒に育てられた兄弟を陥れることさえ何とも思わなくなってしまうのです。

お金があれば、確かに有利です。今の時代、多くのものはお金で手に入ります。そしてお金を手にする機会は平等には与えられていません。金持ちになればなるほどケチになり、他人のものを掠め取ろうとする人も少なくありません。だんだん忘れかけられていますが、ライブドアとか村上ファンドなどはそうした人達が作り上げた組織ですよね (今は変わってきたと思いますが)。人の弱みにつけこむオレオレ詐欺も同じです。金の亡者、文学の言葉を借りれば「金色夜叉」のやからが、人の信頼関係を踏みにじっているのです。

実は、取り引き先の会社の1つが、支払いを繰り返し遅らせ、何度催促してもきちんと対応してくれませんでした。最後の方には、こちらからの連絡に対して返事さえよこさなくなりました。当然そんな会社との取り引きは遠慮しましたが、人を大事にせず、人のお金にルーズになったその会社はしっぺ返しを受けました。信頼を失ったその会社はどんどんと人材を失っていったのでしょう。しばらくして、こちらに泣きついてきました。

金の切れ目が縁の切れ目。支払いがルーズになった会社には信用がおけません。もうその会社との取り引きは絶対に嫌だと思いましたが、平謝りでこれまでのことを謝罪し、こちら側の言い分 (つまり当たり前のことを当たり前にするよう要求) をすべて飲むと申し出てきました。正直もうかかわりたくないという気持ちが強かったのですが、仕事を出す翻訳会社と仕事をもらう翻訳者の力関係が逆転した状態で取り引きできることは、そうそうありません。ある意味おいしい話です。

そんな訳で、これからとりあえず取り引きを再開するのですが、はっきり言ってまだ信用はしてません。恐らくずっと信用しないでしょう。その会社とは、1つ仕事をしたら、その分の支払いを受け取るまで次の仕事はしない約束をしました。最低でも1年くらいはそうやって様子を見るつもりです。そうでもしないと信用できません。そこまで信用を無くした会社なのです。そして、それがお金の力です。

いや、お金を過信し (仕事を出してお金を払ってやっているという思い上がり)、人との信頼関係をないがしろにした会社の顛末です (そんなことは心にもないと言っていますが、どうしたって信じられませんよね)。次に何か問題があれば、今度は容赦しません。それこそ訴訟を起こしてでも徹底的に叩きます。悲しいですが、そうまで決意するに至ったわけです、お金の力で

大金には縁がない方ですが、小額であってもお金というのは怖いものです。でも、なければ生きていけない。お金に代わる大発明が生まれる時代はくるのでしょうか? あと何世紀か先、宇宙に進出していく人類は、それでもお金をめぐって争うんでしょうかね。この世の真の支配者は、お金なんでしょうか。。。